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コラム

トイレットペーパー騒動

1973年10月末、千里中央のあるスーパーに、突然長い行列ができました。トイレットペーパーの特売に並んだ人たちでしたが、これを見た住民たちの間から「トイレットペーパーがなくなるらしい!」というデマが一挙に広がり、買いだめが町じゅうに拡大。数日の間にあらゆる紙製品が店頭から消え、この騒ぎは千里からなんと日本中に広がってしまいました。

当時、中東情勢の緊張から原油の値段が一挙に高くなる「オイルショック」が起き、石油製品がなくなるのではないか・・・という不安が全国的に広がっていました。この心理が特売による行列と結びつき、歴史に残るパニックになったものでしたが、それにしてもなぜ「千里から」だったのでしょう?

千里ニュータウンは当時、全国でもきわめて珍しい「全戸水洗」の町でした。しかも8割以上の住戸は集合住宅でした。もしトイレットペーパーを切らしたら新聞紙などでは代用できず、詰まらせれば上の住戸にも下の住戸にも迷惑がかかる・・・という切迫感が「普通の町」よりはずっと強かったのです。

しかも当時、千里ニュータウンの住民はまだ若く、町の人口も、小学校の児童数などもピークに近づいていて、町には行動力があふれていました。ニュータウン住民は各地からの「よせあつめ」だから団結力がない・・・のではなく、出身地はバラバラでしたが、一挙に入居させたために年齢層は特定の世代に集中していて、インターネットなどなくても、情報の回りはきわめて速かったのです。「奥さん、大変よ!買っとかないと!」というむしろ善意から、ウワサが加速されたと思われます。

しかし当時は自家用車の普及率もまだ低く、買いだめと言っても、大半の人は「両手にいっぱい買う」ぐらいが精一杯だったでしょう。

この出来事は高度経済成長の終わりに重なる象徴的な出来事でしたが、高度経済成長が造ったような千里ニュータウンから広がったことも象徴的な現象でした。

1973年末の石油特売に行列する人たち(北千里駅前)

1973年末の石油特売に行列する人たち(北千里駅前)

撮影:永井俊雄

千里中央のこの歩道橋上の行列からトイレットペーパー騒動が広がった

千里中央のこの歩道橋上の行列からトイレットペーパー騒動が広がった
撮影:奥居武